――親子ではじめる10歳からの起業家教育を読んで
近年、「アントレプレナーシップ教育」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
日本ではまだ「起業家教育」と訳されることが多いため、
どこか特別な人のための教育、という印象を持たれることも少なくありません。
けれど、国際的には少し意味合いが違います。
OECDなどが示しているアントレプレナーシップとは、
会社をつくる力ではなく、
自分の関心を起点に考え、行動し、試行錯誤を通して学び続ける力を指します。
つまり、
「どう生きるか」「どう社会と関わるか」に関わる、
ごく基本的な力のことだと捉えたほうが分かりやすいように思います。
家庭で語れる言葉に下ろした一冊
『子どもの「好き」を「生きる力」に育てる
親子ではじめる10歳からの起業家教育』は、
そうした世界的な教育の考え方を、
家庭での会話レベルまで丁寧に下ろした一冊です。
専門用語を前に出すのではなく、
- 子どもが何に興味を持っているのか
- それをどう言葉にするか
- 誰かとつながるとしたら、どんな形が考えられるか
といった、日常のやりとりを通して考えていく構成になっています。
読んでいて感じたのは、
これは「起業の本」というより、
子どもとの関係のつくり方を問い直す本だということでした。
「10歳から」という言葉に感じた納得感
副題にある「10歳から」という言葉には、
長く学校現場に立ってきた立場として、強くうなずくものがありました。
9歳から10歳頃は、
発達心理学で「9・10歳の節」「9・10歳の壁」とも呼ばれる時期です。
思考のあり方が、量的ではなく質的に変わっていく時期だと言われています。
学校の学習内容を見ても、
4年生あたりから、
- 理由を説明する
- 根拠を示す
- 客観的に考える
といった力が、これまで以上に求められるようになります。
4年生の教室で見てきた子どもたち
実際に4年生を担任していると、
この時期の教室はとても特徴的です。
すでに高学年のような落ち着きを見せる子がいる一方で、
まだ低学年の延長のような幼さを残している子もいます。
その間で、不安定に揺れている子も少なくありません。
同じ学級の中に、
高学年・低学年・その狭間の子どもたちが
雑居しているように感じることもありました。
ただ、4年生の後半になると、
多くの子どもが次第にこの節を越え、
学級全体が落ち着いてくる。
これは、何度も現場で感じてきたことです。
中学年という学年の重さ
そのため、校長として学級編成を考える際には、
中学年には、
ある程度しっかりと学級経営ができる教員に
担任してもらうよう配慮していました。
10歳前後の時期は、
目に見えにくいけれど、
子どもの内面が大きく揺れ動く時期です。
だからこそ、
「教え込む」よりも、
「一緒に考える」「問いを投げる」関わり方が
とても大切になるのだと思います。
起業しなくても、生きる力になる
本書が伝えているアントレプレナーシップも、
決して「起業すること」を目的にしていません。
- 自分の「好き」に目を向けること
- 小さく試してみること
- うまくいかなかった経験を振り返ること
こうした積み重ねが、
将来どんな道を選ぶとしても、
自分を支える力になる。
それは、世界で語られている教育の方向性と、
教室で見てきた子どもたちの姿が、
静かにつながるところでもあります。
まとめ:10歳前後の子どもと向き合う大人へ
この本は、
- 子どもの主体性をどう支えればよいか迷っている方
- 「起業家教育」という言葉に違和感を持っている方
- 10歳前後の子どもとの関係に悩んでいる方
にとって、
考える手がかりを与えてくれる一冊です。
世界標準の教育の話を、
家庭と教室の実感に結びつけて考える。
その入り口として、
とても読みやすい本だと感じました。
参考:Amazon商品ページ

コメント